カスハラと安全配慮義務|労災認定基準と自社がカスハラをしないための責任

カスタマーハラスメント(カスハラ)対策には、2つの側面があります。1つは、顧客や取引先からのカスハラから従業員を「守る」こと。もう1つは、自社の従業員が取引先やお店で、カスハラの「加害者にならない」ようにすることです。

この記事では、安全配慮義務と労災認定基準、そして使用者責任の視点から、企業に求められる対応を整理します。

目次

カスハラ対策は安全配慮義務の問題

カスハラから従業員を守ることは、会社の安全配慮義務の一部です。

労働契約法第5条は、使用者は労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をするものと定めています。さらに、2026年10月からは労働施策総合推進法第33条により、カスハラへの相談体制の整備や抑止のための措置が、事業主の義務になりました。

「お客様のことだから仕方ない」と現場に任せることは、もはや通用しません。

労災認定基準ではカスハラはどう評価される?

カスハラによる精神障害は、労災として認められることがあります。

厚生労働省は2023年9月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」を具体的な出来事として追加しました。著しい迷惑行為とは、暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等をいいます。

注目したいのは、評価の視点に「会社の対応の有無及び内容、改善の状況等」が含まれていることです。認定基準では、心理的負荷が「中」程度の迷惑行為であっても、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合は「強」と判断される例が示されています。

つまり、同じカスハラでも、会社が動いたかどうかで、従業員が受ける負荷の評価が変わるのです。

自社の従業員がカスハラをしたら?業務上の使用者責任

従業員が、仕事の中で取引先にカスハラをした場合、会社も責任を問われる可能性があります。

民法第715条は、従業員が事業の執行について第三者に損害を与えた場合、使用者も賠償する責任を負うと定めています(使用者責任)。例えば、次のような言動です。

  • 発注先や下請けの担当者に、大声で無理な納期を迫る
  • 立場の強さを背景に、契約にない作業を求める
  • 打合せの場で、相手の人格を否定する発言をする

労働施策総合推進法第34条では、事業主は、自社の従業員が他社の従業員への言動に必要な注意を払うよう、研修などの配慮をするよう努めることとされています。また、厚生労働省の指針では、他社から事実確認などの協力を求められたら応じるよう努めること、事実が確認できた場合は懲戒などの措置を講ずることが望ましいとされています。

業務外でお店や行政の窓口でカスハラをしたら?

従業員が仕事を離れて、客としてお店や行政の窓口を利用する場面でも、注意は必要です。

業務外の行為は、原則として「事業の執行について」の行為ではないため、使用者責任の対象にはなりにくいと考えられます。しかし、労働施策総合推進法第34条第5項では、顧客等の立場にある人も、労働者の就業環境を害さないよう注意を払うよう努めることとされています。

誰もが、仕事を離れれば「顧客」になります。社内研修では、「守られる側」だけでなく「加害者にならない側」の視点も伝えることが大切です。

社内で確認したいチェックリスト

  • カスハラから従業員を守る方針と、相談窓口が決まっているか
  • 相談を受けたときに、会社として動く流れがあるか
  • 取引先への言動について、カスハラをしない方針を示しているか
  • 他社から協力を求められたときの対応を決めているか
  • 研修で、業務外でも「加害者にならない」ことを伝えているか

まとめ

カスハラ対策は、従業員を守る安全配慮義務の問題であり、会社の対応は労災の評価にも影響します。同時に、自社の従業員が取引先やお店で加害者にならないよう、方針と研修で伝えていくことも企業の責任です。

「守る」と「しない」の両面から仕組みを整えることが、働きやすい職場と、取引先から信頼される会社につながります。

当事務所では、社会保険労務士・公認心理師として、カスタマーハラスメント対策の方針づくり、相談体制の整備、管理職・従業員向けの研修を行っています。業種や職場の課題に合わせた内容をご提案しますので、お気軽にご相談ください。

ハラスメントの基本的な考え方については、拙著『会社で泣き寝入りしないハラスメント防衛マニュアル 部長、それってパワハラですよ』(徳間書店)でも解説しています。著書の一覧はこちらをご覧ください。

参考文献

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