メンタル不調対応が、なぜ後手に回るのか

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ラインのケアが機能しない本当の理由

建設会社の総務部長より、研修についての問い合わせがありました。
ヒアリングを進める中で見えてきたのは、「他の産業と比べると、メンタル不調者はそれほど多くない」という認識がある一方で、現場監督や責任者が精神的な負担を抱えやすく、管理監督者も部下の不調にどう対応すればよいのか分からず、結果として対応がうまくいっていない、という実態でした。

総務部が関与する段階では、すでに症状が悪化していたり、休職や退職に至ってしまうケースが多く、
「もっと早く関われていれば違ったのではないか」という強い問題意識をお持ちでした。

では、なぜ早期対応ができないのでしょうか。お話を伺うと、面談の機会自体は多く、管理者も部下としっかり向き合おうとしています。形式だけを見れば、決して悪い状態ではありません。むしろ、熱心に関わっている企業だと感じました。

しかし、その中身を見ると、
・励まそうとして助言を重ねてしまう
・退職しないように強い思いを伝えてしまう
といった対応が多く見受けられました。

「自分も同じようにつらい経験をした」「こうすれば乗り越えられる」
こうした言葉は、一見すると良い対応に見えます。しかし、メンタル不調の状態にある部下にとっては、必ずしも支えになるとは限りません。

人は心身がしんどい状態にあると、視野が極端に狭くなります。
その結果、「これほどつらいなら、辞めてしまえばいい」といった短絡的な思考に陥りやすくなります。
その段階で正論や助言を重ねられると、「分かってもらえていない」という感覚が強まり、かえって孤立感を深めてしまうことがあります。

特に、責任感が強く「自分が何とかしなければ」と一人で抱え込んでしまう管理者ほど、結果として対応が行き詰まりやすい傾向があります。

そこで重要になるのが「ラインのケア」です。ラインのケアとは、上司が部下の変化に気づき、声をかけ、話を聞き、必要に応じて医療機関や産業医、総務などにつなぐ一連の対応を指します。

ところが、真面目な管理職ほど、
「総務に相談するのは責任放棄ではないか」
「評価が下がるのではないか」
と考え、一人で抱え込んでしまいがちです。

しかし、これこそが問題です。
不調は、抱え込まれれば抱え込まれるほど、悪化しやすくなります。
結果として、総務が関与する頃には休職や退職という選択肢しか残っていない、という事態につながってしまいます。

ラインのケアとは

ラインのケアでは、管理者が「すべてを解決しようとしない」ために、3つのLを基本としています。

LOOK(見る・観察する)
日頃から部下の様子を観察し、小さな変化に気づくこと。
表情、言動、勤怠、仕事の進め方など、普段との違いを見る視点が重要です。

LISTEN(聴く)
気になる変化があれば声をかけ、評価や助言をせずに話を聴くこと。
この「聴く」が、実は最も難しい対応です。

よくあるのが、
「この人はうつ病に違いない」
といった上司側の思い込みです。
思い込みを前提に話を聞くと、本人の感じていることとの間にズレが生じ、信頼関係を損ねてしまいます。

また、上司は医療の専門家ではありません。
診断名、症状、治療計画といった医療の領域は、医師や産業医が担う分野であり、管理者が判断すべきではありません。

管理者の役割は、診断が出た「あと」にあります。
業務に支障が出ていないか、どのような配慮が必要か、本人だけでなく周囲のメンバーも含めて働きやすい環境が保たれているかを調整することです。
そのためにも、役割分担を明確にすることが欠かせません。

LINK(つなぐ)
上司が一人で抱え込まず、総務、産業医、医療機関などにつなぐこと。
これは責任放棄ではなく、管理者としての適切な判断です。

もう一つ注意が必要なのが、「良かれと思って」アドバイスをしてしまうケースです。
上司としては前向きな言葉のつもりでも、本人からすると、
「それは上司だからできることでしょう」
と感じてしまい、かえって迷いを深めることがあります。

さらに、
「君は絶対に必要な存在だ」
「やる気があればできる。辞めないでほしい」
といった言葉は、離職を防ぐ意図とは裏腹に、「理解されていない」という感覚を強め、逆効果になることも少なくありません。

こうしたすれ違いを防ぐために必要なのが、ラインのケアです。
上司が「気づく・聴く・つなぐ」という役割を理解し、個人任せにしない仕組みを整えることで、不調の長期化や離職を防ぐことができます。

管理職が一人で背負わず、組織として人を支える体制づくりを進めたいとお考えでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

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