ハラスメント防止研修の現場から見えた「配慮」と「環境づくり」の大切さ

先日、ある企業様でハラスメント防止研修を実施しました。
ご相談の内容は、「現場のリーダーが部下に対して厳しく指導しており、ハラスメントに当たるのではないか」というものでした。
企業としては、今回の件を単なるトラブルと捉えるのではなく、職場をより働きやすい環境に整えるきっかけにしたいという、前向きな姿勢を持たれていました。
一見するとハラスメントが疑われるようなケースでしたが、詳しくお話を伺うと、その部下の方にはADHDの診断があることがわかりました。
リーダーは何度も根気強く指導をしていたものの、部下の方はなかなか覚えられず、リーダーからは「反省の様子が見えない」「注意しても繰り返す」と感じられていたようです。
しかし、ADHDは先天的な特性を持つ発達障害のひとつであり、たとえ本人が反省していたとしても、うっかり忘れてしまったり、同じミスを繰り返してしまうことは珍しくありません。
このような場合、厳しい指導よりも特性への理解と、働きやすい仕組みの工夫が必要です。
発達特性のある方への「伝え方・指導・仕組みづくり」の工夫例
発達障害の特性を持つ方にとって、曖昧な指示や複数の人からの情報が入り乱れる環境は、混乱の原因になります。
以下のような工夫を取り入れることで、働きやすさを高めることができます。
1. 業務の優先順位を明確にする
・毎日作業が変わる際は、「次にやるべき仕事」「期限」などをその都度、具体的に伝える
・ホワイトボードを活用し、週ごと・日ごとのスケジュールや作業内容を“見える化する
・作業を時間帯で区切り、「午前中はA作業」「午後はB作業」と時間で整理する
・「Aが終わったらB」「きれいになったら次へ」など、作業の順番を明示する
2. 視覚的なマニュアルで理解をサポート
・写真付きのマニュアルを作成し、目に入りやすい場所に掲示する
・使用する機械や道具に番号を付けたり、色分けして整理する
・マニュアルをカードサイズにしてポケットに入れられるようにし、いつでも確認できるようにする
3. 指導の方法と担当を明確にする
・指導担当者は一人に固定し、複数の人から指示を受けて混乱する状況を避ける
・「何かあったら言ってね」ではなく、「〇〇について困っていたら教えてください」「なければ『ありません』と答えてください」など、問い方と返答のしかたを明確に伝える
発達特性のある方にとって、「言わなくても伝わるだろう」は通用しません。
推測に頼らず、構造化されたわかりやすい職場環境を整えることこそが、本人の力を引き出し、周囲の業務の負担軽減にもつながります。
多様な特性を活かす職場づくりのために
発達障害をはじめ、さまざまな特性を持つ人が共に働く時代になっています。
そのなかで、「違い」を理解し、配慮しながらともに働く力が、これからの企業には求められています。
当事務所では、ハラスメント防止研修はもちろんのこと、発達障害を含む多様な人材への理解と、対応力を高める実践的な研修やサポートも行っています。
「注意しているのに伝わらない…」
「どこまで指導していいのかわからない…」
「配慮しているつもりが、逆にトラブルに…」
そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、職場の支援体制やコミュニケーション方法の見直しをご検討ください。
セミナー・研修・講演

リーダー育成、メンタルヘルス、ハラスメント防止、採用と定着等、ニーズに対応した実践型研修を提供します。
コンサルティング

採用支援、ホワイト財団、介護や福祉の処遇改善加算、就業規則、ハラスメント防止等のコンサルティングを行います。
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