嫌われたくない管理職が現場リスクを高める理由

はじめに
建設業、製造業、運送業などの安全大会に参加すると、「ご安全に」という言葉が自然に返ってきます。
そこには、事故や災害を起こさないことを最優先にするという共通の前提があります。
企業によっては、ゼロ災害を明確な方針として掲げ、行動ルールまで徹底しています。
一方で、安全の重要性は理解していても、「現場の判断に任せている」「暗黙の了解で済ませている」
企業も少なくありません。
この違いは、意識の高さの差ではありません。
安全・緊急時・コンプライアンスに関する事項を、
「指示しなければならないもの」として扱っているかどうかの差です。
安全、緊急時、コンプライアンスに関わることは、依頼したり、ほのめかしたり、考えさせたりする領域ではありません。管理職が明確に指示し、守らせる責任がある領域です。
「言えない理由」がリスクになる
現場で指示があいまいになる背景には、管理職の心理があります。
- ハラスメントと言われたくない
- 嫌われたくない
- 強く言うと関係が悪くなるのではないか
- これくらいは分かっているだろう
しかし、安全・緊急時・コンプライアンスの場面で、これらを理由に指示を控えることは適切ではありません。
安全確保、緊急対応、法令遵守のための指示は、業務上の必要性が明確であり、社会通念上も相当です。
ハラスメントには該当しません。
むしろ、「嫌われたくないから言わない」「角が立つから曖昧にする」ことのほうが、結果として現場の安全を脅かします。
指示しなかったことで起きた現場の例
ある病院では、コロナ禍において、入院中のコロナ罹患患者は巡回ルートの最後に回るというルールが定められていました。
しかし実際には、移動効率を優先した判断により、コロナ患者から先に巡回する看護師がいました。
その行動に対する注意は、「まあ、仕方ない」「次は気をつけて」といった曖昧なものでした。
これは、指示ではなく、配慮を優先した対応でした。
私は「本当に大丈夫ですか」と確認しましたが、行動は是正されませんでした。
同様の巡回ルートは、その後も繰り返されていました。
後日、その病院を訪問する予定がありましたが、
「コロナが蔓延しているため」という理由で、予定は延期となりました。
この出来事が、コロナ蔓延の直接の原因であったかどうかは分かりません。
しかし、感染リスクを高める行動が是正されなかったことは事実です。
問題は、個人の判断力ではありません。
安全に関する事項を、
「嫌われない言い方」で済ませてしまったことです。
命令の型の原則(安全・緊急時・コンプライアンス)
仕事の指示には、いくつかの型があります。
状況に応じて使い分けること自体は重要です。
しかし、次の三つは例外です。
- 安全に関すること
- 緊急時の対応
- 法令・規程・ルールに関わること(コンプライアンス)
これらはすべて、
「指示する(いいつける)」型でなければなりません。
依頼やほのめかしを使うと、「守ってもよい」「判断してよい」という誤解を生みます。
安全やコンプライアンスは、創意工夫や効率化の対象ではありません。守ることが前提条件です。
どう言えばいいのか(具体的な指示例)
安全に関する指示
- 「感染防止のため、必ずコロナ患者は最後に巡回してください」
- 「このルートは安全ルールです。変更不可です」
- 「効率より安全を優先します。判断は不要です」
緊急時の指示
- 「今すぐ対応してください」
- 「この対応を最優先で行ってください」
コンプライアンスの指示
- 「これはルールで禁止されています」
- 「前例があっても、今後は認めません」
- 「不明な場合は、必ず管理職に確認してください」
管理職が無意識にやっている「曖昧指示」チェック
- 「できれば」「なるべく」「気をつけて」で終わっている
- 「どう思う?」「現場で判断して」と任せている
- ハラスメントが怖くて言葉をぼかしている
- 注意しただけで、行動確認をしていない
一つでも当てはまれば、指示が伝わっていない可能性があります。
曖昧になりそうなときは、必ず次の一文を添えます。
「これは安全(緊急時/コンプライアンス)に関わるため、
個人の判断には任せられません。」
まとめ
管理職に求められるのは、好かれることではありません。
守るべきことを、守らせることです。
ハラスメントを恐れて指示をしないことが、最大のリスクになる場面があります。
安全、緊急時、コンプライアンスに関することほど、
迷わせない。考えさせない。選ばせない。
命令の型は、人を縛るためのものではありません。
現場と人を守るための技術です。
ご案内(安全大会・管理職向けハラスメント防止講座)
本稿でお伝えしたとおり、安全・緊急時・コンプライアンスにおいては、「配慮した言い方」よりも
適切な指示ができることが、現場を守ります。
当事務所では、安全大会および管理職向けハラスメント防止講座において、
- なぜ安全やルールは「指示しなければならないのか
- 命令の型を誤ったときに起きる実際のトラブル
- ハラスメントにならない指示の考え方
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を、事例を交えて分かりやすくお伝えしています。
「ハラスメントが怖くて指示できない」
「注意したつもりなのに、行動が変わらない」
「安全ルールが現場で形骸化している」
このようなお悩みをお持ちの企業・団体様は、
ぜひ一度ご相談ください。
安全を守るための指示力は、
管理職に求められる重要なマネジメントスキルです。
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